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医療DX

医療等情報の『標準化』とは ― グランドデザインと将来像を、現場目線で読み解く

📚 標準化シリーズ 第1回(全4回+実例編)

📄 参照: 内閣府 健康・医療戦略推進事務局「医療等情報の標準化について(PDF)」(第11回 医療等情報の利活用の推進に関する検討会 資料2、令和8年4月27日)。検討会の全資料は 内閣府のページ で公開されています。本記事は、これら公開資料をもとに現場目線で整理したものです。

はじめに ― なぜいま「標準化」なのか

医療のデジタル化が進み、電子カルテやレセプトに膨大なデータが蓄積されています。しかし、そのデータを研究・創薬・政策に活かそう(=二次利用)とすると、大きな壁にぶつかります。施設ごとにコードや書き方がバラバラで、つなげて解析できないのです。

国は、この課題に対して「医療データ利活用のグランドデザイン(全体像)」づくりを進めています。基本理念・制度枠組み・情報連携基盤を一体的に描く取り組みで、令和8年夏に議論の整理、令和9年の通常国会への法案提出が目指されています。その土台にあるのが、この記事のテーマ「標準化」です。

この記事は、標準化シリーズの入り口です。続く記事で、標準化の「語彙」である標準マスタ、それを運ぶ「器」である HL7 FHIR を掘り下げます。

図:標準化の「3層」― この連載の地図 基盤層 電子カルテ情報共有サービス / 全国医療情報プラットフォーム ① この記事 器(交換)層 HL7 v2(院内連携)/ HL7 FHIR(施設間・アプリ連携) ② FHIR 編 語彙層 標準マスタ(病名 ICD-10 / 医薬品 HOT / 検査 JLAC …) ③ マスタ編 下ほど土台。マスタ(語彙)の上に、交換の器(HL7 v2 / FHIR)、その上に共有基盤が乗る。だから連載は「③マスタ → ②FHIR」の順。
標準化は「語彙 → 器 → 基盤」の3層構造。本連載は土台から順に掘り下げます。

そもそも「標準化」とは、なぜ必要か

標準化とは、ざっくり言えば「同じものを、同じコード・同じ形式で表す」ことです。たとえば病名を「糖尿病」と自由記載するのではなく、標準化された病名コードで記録する。検査も、薬も、同様にコード化する。

これにより、別々の病院のデータを、正確につなげて解析できるようになります。国の検討会でも、標準化は「多施設の同様なデータを連結して解析するために重要」と位置づけられています。

ポイントは、標準化が二次利用(研究)のためだけではないことです。まず一次利用(目の前の診療)に役立ち、その結果として二次利用にもつながる——この順序が重視されています。「利活用者のために現場に負担を強いる」のではなく、「現場が使いやすい形が、結果として社会全体の財産になる」という考え方です。

国内で先行する「3文書6情報」

日本では、電子カルテ情報のうち優先的に標準化する対象として「3文書6情報」が定められ、先行して整備が進んでいます。

  • 3文書:診療情報提供書(紹介状)/退院時サマリー/健診結果報告書
  • 6情報:傷病名/薬剤アレルギー等/その他のアレルギー等/検査/感染症/処方

これらを、各医療機関が電子カルテ情報共有サービスへ登録(プッシュ型)することで、医療機関どうしが必要な情報を共有できる仕組みが構築されています。

欧州「EHDS」との違い ― プッシュ型とプル型

医療データ利活用は、世界的な潮流でもあります。よく参照されるのが、2025年3月に発効した欧州の EHDS(European Health Data Space) です。EHDSでは、医療機関や製薬会社などのデータ保有者に、研究者等へのデータ共有が義務付けられています。

収集の方式にも違いがあります。

  • 日本(プッシュ型):医療機関が、必要なデータを情報共有サービスへ登録する
  • EHDS(プル型):医療機関が保有するデータを、利用者が参照できる

どちらが優れているという話ではなく、制度設計の思想の違いです。日本のグランドデザインも、こうした海外の進捗を参考にしながら描かれています。

標準化の3つの方向性

検討会の議論からは、標準化の方向性が読み取れます。

  1. 国際標準を基本に採用する … 日本独自の標準を新たに作るのではなく、国際的に通用する標準を採る。グローバル研究にも活かせるように。
  2. 構造化されていないデータは、AIで構造化する … カルテのテキストや画像など、そのままでは解析しにくいデータも、AIで血圧・体重などを抽出・構造化することで、低コストに利活用できるようになりつつある。
  3. 患者識別子で横断的につなぐ … 被保険者番号やマイナンバー等の識別子で、複数のデータベースを連結して解析できるようにする。

その「器」になるもの ― 標準型電子カルテと全国医療情報プラットフォーム

標準化されたデータが流れるとして、国は次のような基盤を整備しています。

  • 標準型電子カルテ … 小規模な医療機関でも過度な負担なく導入でき、標準に沿ったデータを扱える電子カルテ(デジタル庁が開発中)
  • 全国医療情報プラットフォーム … レセプト・特定健診・電子カルテ情報などを、マイナンバー制度の基盤も活用してつなぐ、国全体の情報連携基盤

「医療DX令和ビジョン2030」では、遅くとも2030年には概ねすべての医療機関で、必要な患者情報を共有するための電子カルテの導入が目標とされています。標準化は、その普及と一体で進みます。

標準はどう決まる? ― 厚生労働省標準規格の仕組み

「標準化」といっても、誰かが勝手に決めるわけではありません。日本では、学会や民間の規格制定団体が参画する 医療情報標準化推進協議会(HELICS協議会) で候補が選定され、厚生労働省の 保健医療情報標準化会議 で議論のうえ、厚生労働省標準規格として採択・普及が図られます。

この「厚生労働省標準規格(HS◯◯◯)」の一覧こそ、標準マスタHL7 FHIR記述仕様の本体です。その中身は、続く記事で詳しく取り上げます。

クリニック・中小医療機関にとっての意味

大きな国の話に見えますが、現場にも確実に関わってきます。

  • 標準型電子カルテやクラウド型サービスの普及は、小規模ほど恩恵が大きい(費用補助の対象にもなっています)
  • 紹介状・退院時サマリー・健診結果が標準形式でやり取りできれば、連携の手間と転記ミスが減る
  • 「まずは一次利用(日々の診療)が楽になる」ことが起点。二次利用は、その積み重ねの先にある

まとめ

  • 医療データ利活用のグランドデザインづくりが進み、その土台が標準化。標準化は一次利用に役立ち、二次利用にも資する
  • 国内は3文書6情報が先行し、電子カルテ情報共有サービスへプッシュ型で登録。欧州EHDSはプル型
  • 方向性は国際標準の採用・AIによる構造化・識別子での連結。器は標準型電子カルテ/全国医療情報プラットフォーム。令和8年夏に整理、令和9年に法案

標準化は地味ですが、日本の医療データが「つながる」か「バラバラのまま」かを分ける、決定的な土台づくりです。


📎 標準化シリーズ(全4回+実例編)

あわせて読みたい

本記事は、内閣府 健康・医療戦略推進事務局「医療等情報の利活用の推進に関する検討会」の公開資料(「医療等情報の標準化について」令和8年4月ほか)に基づき、医療現場の視点で整理したものです。制度の最新状況は各府省の公式情報をご確認ください。MEDIS-DC・JAHIS・日本HL7協会などの標準化団体の一次情報もあわせてご参照ください。

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