📚 標準化シリーズ 第3回(全4回+実例編)
📄 参照: HL7 FHIR JP Core 実装ガイド(jpfhir.jp)、日本医療情報学会 FHIR IGポータル(std.jpfhir.jp)、日本HL7協会。JP Coreは日本医療情報学会(JAMI)FHIR日本実装検討WGが策定しています。
はじめに ― マスタ・HL7 v2 の、その先へ
このシリーズでは、標準化の全体像、そして標準マスタ(語彙)と、それを運ぶ古くからの器 HL7 v2 を見てきました。
最終回の今回は、その器の現代形である HL7 FHIR を取り上げます。読み方は「ファイア」。電子カルテ情報共有サービスをはじめ、国が進める新しい基盤の共通言語として採用が決まった規格です。ただし——普及はこれから。名前は聞くけれど中身は曖昧、そして「もう全部これで動いているの?」という疑問に、正確なところを整理します。
HL7 とは ― そして FHIR の位置づけ
まず HL7(エイチエルセブン) は、医療情報交換の標準を作る国際団体、およびその規格群の総称です。代表的な規格が3つあります。
- HL7 v2(1987年〜)… メッセージ型。
|区切りで検査結果やオーダーを送る。院内の部門連携で今も現役(前回記事参照) - HL7 CDA(Clinical Document Architecture)… 文書型(XML)。退院時サマリーなど「文書」をまるごと表現
- HL7 FHIR(2011年〜)… リソース型+Web API。現代のWeb技術に沿った、いま最も勢いのある規格
FHIR とは ― 「リソース」を「Web API」でやり取りする
FHIR は Fast Healthcare Interoperability Resources の略。ポイントは2つです。
① リソース(部品)で表す
患者は Patient、検査結果は Observation、処方は MedicationRequest、病名は Condition——というように、医療の情報を意味のある部品(リソース)に分けて表現します。リソースは100種類以上あり、臨床(検査・処方・アレルギー・画像)から、予約・請求・アンケートまで医療の幅広い領域をカバーします。レゴブロックのように、必要な部品を組み合わせて、紹介状にも健診結果にも仕立てられます。
② Web標準のAPIでやり取りする リソースは JSON(や XML)で表現され、RESTという一般的なWeb APIの作法で送受信します。つまり、一般的なWebエンジニアが扱える技術で医療データを交換できる——これが、従来規格に比べた FHIR の実装しやすさです。
一部だけ取り出す・更新する、といった細かい単位のやり取りが得意なのも特長で、アプリ連携(後述の SMART on FHIR)と相性がよいのです。
なぜ「R4」なのか
FHIR にはバージョンがあり、FHIR R4(4.0.1、2019年公開)で一部が正式確定(Normative)しました。これにより「もう大きくは変わらない」土台ができ、各国の実装が一気に進みました。その後 R4B・R5 も出ていますが、日本の実装は基本的に R4 を採用しています。「まずは R4 を押さえる」で十分です。
JP Core とは ― 日本向けの「実装ガイド」
FHIR は国際規格なので、そのままでは日本の制度やマスタ(前回のICD-10やJLACなど)に細かく合いません。そこを埋めるのが 実装ガイド(Implementation Guide, IG) です。
日本向けのIGが HL7 FHIR JP Core 実装ガイド。日本医療情報学会(JAMI)のFHIR日本実装検討WGが策定し、FHIR R4(4.0.1)をベースに、日本で使うリソースの形(プロファイル)や、どのマスタ・コードを使うかを具体的に定めています。国内でFHIR対応を進める際の、共通の土台です。
💡 関係を一言で … FHIR R4 が「国際共通のルールブック」、JP Core が「日本仕様の付録」。海外のIG(例:米国の US Core)と同じ立て付けです。
FHIR は、どこで使われるのか(=普及はこれから)
ここは誤解されやすいところです。FHIR は国が整備する新しい基盤の共通言語として採用されましたが、2026年時点では多くがモデル事業・準備段階で、広く稼働しているわけではありません。「これから普及する標準」と捉えるのが正確です。
- 電子カルテ情報共有サービス/3文書6情報 … 診療情報提供書・退院時サマリー・健診結果報告書などを HL7 FHIR記述仕様でやり取りする設計。2025年にモデル事業が始まり、本格運用は2026年度の冬頃(2027年初頭)を目標とする段階です
- 電子処方箋 … 意外に思われますが、現行の正式フォーマットは実は HL7 CDA(文書型)です。FHIR準拠の記述仕様も整備が進み、将来的にFHIRへ寄せていく方向にあります(=いまはまだCDAが中心)
- 全国医療情報プラットフォーム … 施設間で標準化データを流す構想の土台として、FHIRを想定
- SMART on FHIR … FHIRのAPIを使い、外部アプリが(本人同意のもと)医療データを安全に読み書きする国際的な仕組み。「医療版アプリ連携」の考え方
つまり FHIR は「採用が決まった標準」であって、実運用の広がりはこれから。だからこそ、これから電子カルテやシステムを選ぶ側にとって「FHIR(JP Core)に対応しているか」が効いてくるのです。
HL7 v2 と FHIR ― どう違う?
| HL7 v2 | HL7 FHIR | |
|---|---|---|
| 形 | メッセージ(パイプ区切り) | リソース(JSON/XML) |
| やり取り | 施設内・部門連携が中心 | Web API(REST)、施設間・アプリ連携 |
| 実装のしやすさ | 専門知識が要る | 一般的なWeb技術で扱える |
| 立ち位置 | 院内で現役の主力 | 施設間・国基盤で拡大中 |
どちらかが消えるという話ではありません。院内は HL7 v2 が現役、施設間・国の基盤は FHIR ——というすみ分けで当面は共存します。
クリニック・ベンダーにとっての意味
- 電子カルテやシステムを選ぶとき、「FHIR(JP Core)対応」かどうかが、今後の連携可否を左右します
- 電子カルテ情報共有サービスへの接続改修は、費用補助の対象にもなっています(FHIR形式への変換が要件)
- 「自院のデータを、標準形式で外に出せるか」が、地域連携やデータ利活用の入口になります
まとめ
- HL7 FHIRは、医療情報をリソース(部品)で表し、Web API(REST/JSON)でやり取りする現代的な標準。HL7 v2・CDAの後継
- FHIR R4(2019)が事実上の標準版。日本の実装はR4中心
- JP Coreは、そのR4を日本の制度・マスタに合わせた実装ガイド(JAMIが策定)
- 電子カルテ情報共有サービス(3文書6情報)が採用、全国医療情報プラットフォームの土台。ただし普及はこれから(電子処方箋の現行フォーマットは実はCDA)。だからこそ、「FHIR対応」がシステム選定の要件へ
「マスタ(語彙)→ HL7 v2(旧来の器)→ FHIR(現代の器)」。ここまでで骨格が見えました。次回(第4回)は、日本版FHIRの共通基盤 JP Core を深掘りします。
📎 標準化シリーズ(全4回+実例編)
- (第1回)医療等情報の『標準化』とは
- (第2回)標準マスタ入門 ― 病名・医薬品・検査コードの世界
- (第3回・本記事)今更聞けない HL7 FHIR ― FHIR R4・JP Core
- (第4回)JP Core とは何か ― 日本版FHIRの共通基盤
- (実例編)FHIRに対応する主なサービス・製品カタログ
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本記事は、HL7 FHIR JP Core 実装ガイド(jpfhir.jp)・日本医療情報学会 FHIR IGポータル・日本HL7協会 の公開情報に基づき整理したものです。仕様の最新版・正確な適用範囲は各公式情報をご確認ください。