📚 標準化シリーズ 第2回(全4回+実例編)
📄 参照: 内閣府「医療等情報の標準化について(PDF)」(令和8年4月)に掲載の厚生労働省標準規格一覧・JLAC解説ほか。マスタの一次情報は 医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)、保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)、JLAC(IDIAL) を参照。
はじめに ― マスタは「共通の辞書」
前回、医療等情報の標準化の全体像を見ました。今回はその語彙層、すなわち 標準マスタ の話です。
標準マスタとは、ざっくり言えば「病名・医薬品・検査などを、同じコードで表すための共通の辞書」です。ある病院が「高血圧」を独自の番号で管理し、別の病院が別の番号で管理していたら、データはつながりません。全国共通のコードで記録することで、初めて連結・解析ができます。
「標準化」というと難しく聞こえますが、その正体の多くは、このマスタ(コード表)を揃えることです。
主なマスタを、領域ごとに
病名 ― ICD-10対応標準病名マスター
病名は、WHOの国際疾病分類 ICD-10 に対応づけた 標準病名マスター で表します。「糖尿病」「高血圧」といった病名に統一コードを与え、施設をまたいでも同じ病気を同じコードで扱えるようにします。傷病名は、前回ふれた6情報のひとつでもあります。
医薬品 ― HOTコード・YJコード
医薬品には、いくつかのコードがあります。
- HOTコードマスター … 医薬品を、製品・一般名・レセプト用コードなどと橋渡しする「基幹」のマスタ
- YJコード(個別医薬品コード) … 個々の医薬品を識別するコード
同じ薬でも、目的(在庫・処方・レセプト・成分での分析)によって見たいコードが違うため、これらを相互に対応づけられることが重要です。
検査 ― JLAC10 から JLAC11 へ(ここが要注意)
検体検査のコードは、標準化のなかでも特に難所です。
厚生労働省は2011年から JLAC10 の使用を推奨してきましたが、医療機関での利用は低調でした。理由は、JLAC10が「コードそのもの」ではなく「付番規則」だったこと。各施設が規則に従って自分でコードを付ける必要があり、結果として施設ごとにコードがばらつきました。加えて、コード体系に検査結果の「単位」が含まれる作りでした。
これを改訂したのが JLAC11 です。JLACセンター(IDIAL内に設置)が単位の情報を加えつつ、一意のコードを付番する方式に変わりました。ただし、付番済みの検査のカバー率にはまだ課題があります(検査頻度ベースでは概ねカバー)。国は、コードの統一化とカバー率の改善を進め、JLAC11を厚生労働省標準規格として認定する方向です。
現場では、JLAC10・JLAC11・LOINC(国際的な検査コード)・ハウスコード(施設独自コード)が混在しているのが実情です。
その他 ― 看護・歯科・画像
- 看護 … 看護実践用語標準マスター(観察や看護行為の用語をコード化)
- 歯科 … 標準歯式コード・口腔審査情報標準コード
- 画像 … DICOM(医用画像の通信・保存の国際標準)
誰が作っているのか ― MEDIS-DC を中心に
これらのマスタの多くは、医療情報システム開発センター(MEDIS-DC) が整備・提供しています。そして、学会や民間団体が参画する医療情報標準化推進協議会での選定を経て、厚生労働省の会議で議論され、厚生労働省標準規格(HS◯◯◯) として採択されます(例:HS001 医薬品HOTコードマスター、HS005 ICD-10対応標準病名マスター、HS042 個別医薬品コード)。
マスタを「運ぶ」もの ― JAHIS交換規約とSS-MIX2
マスタは「語彙(辞書)」であって、それだけではデータは動きません。マスタを載せて、システム間でやり取りする「交換規約」が必要です。ここで登場するのが、保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)が定める交換規約です。
- JAHIS臨床検査データ交換規約(HS012)
- JAHIS処方データ交換規約(HS022)
- JAHIS放射線データ交換規約(HS016)
- SS-MIX2(HS026)… 標準的な形式でデータを蓄積・交換するストレージ仕様
土台にある「HL7 v2」
これらの交換規約の多くは、HL7 v2 というメッセージ規格を土台にしています。HL7 v2は、1980年代から世界中の病院で使われてきたメッセージ型の規格で、|(パイプ)で区切られた行に、患者情報や検査結果などを詰めて送ります。地味ですが、電子カルテと検査・放射線・薬剤などの部門システムをつなぐ院内連携の定番として、今も現役の主力です。
つまり、「語彙(マスタ)」を「器(HL7 v2の交換規約)」に載せて運ぶ——これが、日本の医療情報連携の基本構造です。この院内連携(電子カルテ⇔部門システム)の実務は、別記事で改めて掘り下げます。そして次回は、HL7 v2の後継にあたる、より現代的な「器」= HL7 FHIR を取り上げます。
現場の課題 ― ハウスコードの壁
標準マスタが整備されても、現場ではハウスコード(施設独自のコード)が根強く使われています。長年の運用や、標準マスタのカバー率不足がその背景です。国の検討でも、コードの統一化とカバー率の改善が繰り返し課題として挙げられています。
裏を返せば、これから標準型電子カルテやクラウド型サービスが広がるほど、標準マスタに沿ったデータが自然に増え、「つながる」データへと近づいていきます。
まとめ
- 標準マスタは「同じものを同じコードで表す共通の辞書」。病名はICD-10対応標準病名、医薬品はHOT/YJ、検査はJLAC(10→11)が代表
- JLAC10は付番規則で利用低調 → JLAC11で一意コード+単位対応へ。カバー率が今後の鍵
- マスタ(語彙)を運ぶのが JAHIS交換規約・SS-MIX2(HL7 v2が土台)。現場の壁はハウスコードの乱立
次回は、これらを運ぶ「器」の最新形である HL7 FHIR を掘り下げます。
📎 標準化シリーズ(全4回+実例編)
- (第1回)医療等情報の『標準化』とは
- (第2回・本記事)標準マスタ入門 ― 病名・医薬品・検査コードの世界
- (第3回)今更聞けない HL7 FHIR ― FHIR R4・JP Core
- (第4回)JP Core とは何か ― 日本版FHIRの共通基盤
- (実例編)FHIRに対応する主なサービス・製品カタログ
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本記事は、内閣府「医療等情報の標準化について」(令和8年4月)掲載の資料および、MEDIS-DC・JAHIS・JLAC(IDIAL) の公開情報に基づき整理したものです。各マスタ・規約の最新版は各団体の公式情報をご確認ください。