本文へスキップ
技術

JP Core とは何か ― 日本版FHIRの『共通基盤』と、その上に立つ実装ガイド

📚 標準化シリーズ 第4回(全4回+実例編)

📄 参照: HL7 FHIR JP Core 実装ガイド(jpfhir.jp)版の履歴JP-CLINS 実装ガイド日本医療情報学会 FHIR IGポータル(std.jpfhir.jp)日本HL7協会。JP Core・JP-CLINSは日本医療情報学会(JAMI)のFHIR日本実装検討ワーキンググループが策定しています。

はじめに ― 「日本版FHIR」の正体

前回のHL7 FHIR 入門で、FHIR R4 と JP Core をひととおり見ました。今回は、その JP Core だけを取り出して深掘りします。日本で FHIR を語るとき、必ず出てくる言葉。ここを押さえると、電子カルテ情報共有サービスの設計図がすっきり見えてきます。

結論を先に言うと、JP Core は 「日本でFHIRを使うときの共通ルールブック」。国際標準のFHIRと、日本の現場のあいだをつなぐ土台です。

なぜ JP Core が要るのか

FHIR R4 は国際標準で、あえて自由度を高く作られています。世界中のどんな医療制度にも対応できるよう、緩やかに決めてあるのです。ところが自由度が高いままだと、同じ患者情報でも実装者によって書き方がバラバラになり、結局つながりません。

そこで登場するのが 実装ガイド(Implementation Guide, IG) です。IGは「この国・この用途では、こう書く」と制約を足すもの。JP Core は、その日本向けの共通版です。

キーワードは「プロファイル」

JP Core の中身は、プロファイルの集まりです。プロファイルとは、FHIRのリソース(前回の PatientObservation など)に「日本ではこの項目は必須」「このコードはこのマスタを使う」といった制約をかけた型のこと。

たとえば JP_Patient(患者のプロファイル)では、患者の 識別子(identifier)を必ず持つことが求められます。被保険者番号などで患者を確実に識別できるようにするためです。ほかにも JP_Observation(検査・観察)、JP_Condition(病名)、JP_MedicationRequest(処方)、JP_AllergyIntolerance(アレルギー)などが定義されています。

JP Core は FHIR R4(4.0.1)をベースに、日本医療情報学会(JAMI)のワーキンググループが策定・改訂を続けています(2025年に v1.2.0 が公開され、後継版の開発も進行中)。

図:リソースとプロファイルの関係 プロファイル = リソースに「日本向けの制約(必須項目・使うマスタ・拡張)」を足した型。1リソースに複数のプロファイルもある。 FHIR R4 リソース JP Core プロファイル Patient 患者 制約を追加 JP_Patient identifier 必須 など日本向けの制約 1 対 1 Observation 検査・観察 JP_Observation_Common(共通) JP_Observation_VitalSigns(バイタル) JP_Observation_LabResult(検査結果) … ほか、用途別に複数(v1.2.0 で約11種) 1 対 多
1つのFHIRリソースに、JP Coreのプロファイルが1つ〜複数ぶら下がる。プロファイルは「日本仕様の型」。

JP Core は FHIR R4 の「どこまで」をカバーするか

よく聞かれるのが「FHIR R4 のうち、JP Core はどこまで対応しているのか」です。

FHIR R4 には、患者や検査から予約・請求まで 約145種類 のリソース型があります。JP Core は、そのすべてではなく、日常診療でまず必要になる中核的なリソースにプロファイルを定義しています。JP Core v1.2.0 時点では、約25種類 のFHIR R4リソース型に対応しています。

つまり JP Core は「FHIR R4 の全部」ではなく、現場で必要な範囲から。足りない部分は、版が上がるにつれて、また用途別IG(JP-CLINS など)で補われていきます。

JP Core v1.2.0 が対応するFHIR R4リソース(約25種)

分類対応する FHIR R4 リソース
人・組織・受診(管理系)Patient(患者)/ Practitioner(医療者)/ PractitionerRole(医療者の役割)/ Organization(組織)/ Location(場所)/ Coverage(保険)/ Encounter(受診・入院)
傷病・アレルギー・所見Condition(傷病名)/ AllergyIntolerance(アレルギー)/ Observation(検査値・バイタル・身体所見 ほか、用途別に複数)/ DiagnosticReport(検査・画像レポート、用途別に複数)/ Procedure(処置・手術)/ FamilyMemberHistory(家族歴)
医薬品(処方〜調剤〜実施)Medication(医薬品)/ MedicationRequest(処方)/ MedicationDispense(調剤)/ MedicationAdministration(投与実施)/ MedicationStatement(服薬状況)
検査・画像・検体・予防接種ServiceRequest(オーダ)/ Specimen(検体)/ ImagingStudy(画像検査)/ Media(内視鏡画像 等)/ Immunization(予防接種)
デバイス・データDevice(医療機器)/ Binary(バイナリデータ)

Observation や DiagnosticReport などは、用途ごとに複数のプロファイルへ枝分かれします(例:Observation はバイタル・検査結果・身体所見 …)。最新かつ正確な一覧・対応版は、公式の JP Core Artifacts でご確認ください(版が上がると対応リソースも増えます)。

標準マスタと、ここで合流する

思い出してください。第2回の標準マスタで見た ICD-10対応標準病名・JLAC・HOT などのコード群。JP Core のプロファイルは、「このコード欄には、この標準マスタを使う」という結びつき(用語のバインディング)を定めています。

つまり——

器(FHIR / JP Coreのプロファイル)× 語彙(標準マスタ)= 実際に交換できるデータ

この連載でずっと分けて説明してきた「器」と「語彙」が、JP Core で具体的に合流します。ここが、標準化シリーズの一つの到達点です。

階層構造 ― JP Core の上に「用途別IG」が立つ

JP Core の最大のポイントは、それ自体が最終ゴールではなく、共通の土台だということです。実際のサービスは、JP Core の上に用途ごとの実装ガイドを重ねて作られます。

図:日本のFHIR実装は「土台の上に用途別IG」の積み木 用途別IG(実際の接続仕様) JP-CLINS 電子カルテ情報共有サービス用 電子処方箋 処方情報 FHIR 記述仕様 健診結果報告書 ほか 健診結果 FHIR 記述仕様 JP Core ― 日本の共通基盤IG JP_Patient など共通プロファイル+標準マスタの結びつき HL7 FHIR R4 ― 国際標準の土台 4.0.1。リソース+Web API(世界共通のルールブック)
FHIR R4 の上に JP Core、その上に用途別IG。共通基盤を一度作れば、各サービスが再利用できます。

代表が JP-CLINS(CLinical Information Sharing IG)です。これは電子カルテ情報共有サービス向けの実装ガイドで、正式には 「2文書5情報+患者サマリー」 を扱う仕様として整備されています。

📝 補足:電子カルテ情報共有サービスは全体として「3文書6情報」と呼ばれますが、そのうち診療情報提供書・退院時サマリーなどを扱う JP-CLINS は「2文書5情報+患者サマリー」という単位で仕様化されています(健診結果報告書などは別の記述仕様)。

同じように、電子処方箋の処方情報健診結果報告書にも、それぞれ JP Core の上に立つ FHIR 記述仕様があります。共通の土台(JP Core)を一度作れば、用途別IGはそれを再利用できる——これが、開発の効率と、サービス間の一貫性を生みます。

クリニック・ベンダーにとっての意味

  • 電子カルテやシステムが 「JP Core 対応」 であることは、これからの連携のベースラインになります
  • ただし、実際に電子カルテ情報共有サービスへ接続する際は、JP-CLINS など用途別IGの仕様に従う必要があります(JP Core だけでは足りない)
  • 仕様は版が上がっていくもの。対応バージョン(JP Core / JP-CLINS の版)が合っているかは、導入時の確認ポイントです
  • 前回同様、普及はこれから。だからこそ、選定時に「どのIG・どの版に対応しているか」を確認する意味があります

まとめ

  • JP Core は、国際標準 FHIR R4 を日本向けに具体化した 共通基盤の実装ガイド(JAMI が策定、FHIR R4 4.0.1 ベース)
  • 中身は プロファイルJP_Patient など、制約をかけたリソースの型)。標準マスタと結びつき、「器 × 語彙」がここで合流
  • 構造は FHIR R4 → JP Core → 用途別IG。電子カルテ情報共有サービスの JP-CLINS(2文書5情報+患者サマリー)などがその上に立つ
  • 「JP Core 対応」は今後のベースライン。実接続は用途別IG(版に注意)に従う

「標準化 → マスタ → FHIR → JP Core」。この4回で、日本の医療データがつながる仕組みを、土台から屋根まで通して見てきました。


📎 標準化シリーズ(全4回+実例編)

あわせて読みたい

本記事は、HL7 FHIR JP Core/JP-CLINS 実装ガイド(jpfhir.jp)日本医療情報学会 FHIR IGポータル日本HL7協会 の公開情報に基づき整理したものです。プロファイル・版の最新情報は各公式情報をご確認ください。

関連キーワード(AI 抽出): #技術 #JP Core #HL7 FHIR #FHIR R4 #JP-CLINS #実装ガイド #電子カルテ情報共有サービス #相互運用性

医療 × ICT × AI のご相談は株式会社メディクトへ

予約システム・ホームページ制作・医療データ分析など、記事に関連するご相談も歓迎です。

株式会社メディクトに相談する →

関連する記事

技術

今更聞けない HL7 FHIR ― FHIR R4・JP Core を、やさしく整理する

医療の相互運用性でいま主役になっているのが HL7 FHIR です。『リソース』という部品をWeb API(REST)でやり取りする、現代的な仕組み。電子カルテ情報共有サービスの3文書6情報も、電子処方箋も、この FHIR で交換されます。FHIRとは何か、なぜ R4 が標準版なのか、日本向けの実装ガイド JP Core とは何か——HL7 v2 からの系譜をたどりながら、標準化シリーズの最終回として、専門用語をかみくだいて解説します。

続きを読む
技術

医療情報システムは オンプレミス か クラウド か ― 医療ならではの判断軸

かつて「医療システムは院内に置くもの」が当たり前でしたが、ガイドライン整備とともに条件付きでクラウド利用が進んでいます。3省2ガイドラインのクラウド要件、責任分界、災害時の事業継続、コスト、そして「全部クラウド/全部オンプレ」ではない現実解(ハイブリッド・データ最小化)まで、病院IT・ベンダーの視点で整理します。

続きを読む
技術

医療情報システムとバイブコーディング ― AIで「話すだけ開発」は医療現場で使えるか

AIに自然言語で指示するだけでソフトを作る「バイブコーディング」が急速に広がっています。院内の事務自動化や小さなツールの内製とは好相性ですが、患者情報を扱う医療現場では「話すだけ」で終わらせてはいけない一線があります。どこまでが安全で、どこからが危険か。内製とベンダーの線引きとあわせて、現場目線で整理します。

続きを読む