🏥 病院情報システム 担当者向けシリーズ ベンダーとの打ち合わせを担当される方へ。
前提: 議事録はもう手で書いていません
会議の文字起こしと要約は、AIが担うのが当たり前になりました。それ自体は良いことです。 記録の負担は大きく減り、発言の取りこぼしも減りました。
本記事は「AIを使うな」という話ではありません。使う前提で、医療機関だけに固有の論点が2つあるという話です。
論点① その会話は、どこへ送られていますか
ベンダーとの打ち合わせでは、会話にこういうものが混ざります。
- 画面共有した電子カルテのテスト環境(患者名がテストデータでない場合があります)
- 障害対応の打ち合わせで出る具体的な症例の話
- 院内のネットワーク構成、サーバの所在、外部接続の経路
- 職員の氏名・所属・権限
このうち上の2つは患者情報、下の2つはセキュリティ上の構成情報です。
AI議事録のサービスを使うと、音声とテキストはそのサービスの事業者に渡ります。
確認したいこと
| データの保存先 | 国内か国外か |
| 保存期間 | いつまで残るか。削除できるか |
| 学習への利用 | 入力内容がモデルの学習に使われないか |
| 契約の形 | 個人の無料アカウントか、法人契約か |
⚠️ 無料版や個人アカウントの利用が、いちばん見落とされます。担当者が善意で効率化しようとして、個人のアカウントで録音していることがあります。
厚生労働省のガイドラインは、医療情報を扱う事業者との関係について定めを置いています。患者情報が渡りうるサービスは、委託先管理の対象になりえます。
現実的な対処
AI議事録を禁止するのは、現実的ではありません。 便利ですし、止めても隠れて使われるだけです。
代わりに決めておくことをおすすめします。
- 使ってよいサービスを院内で決める(法人契約・保存先・学習不使用が確認できたもの)
- 患者情報が出る場面では録音を止める運用にする(障害対応の打ち合わせは特に)
- 画面共有はテストデータで行うようベンダーに求める
- 相手の同意を取る(ベンダー側にも録音されない権利があります)
論点② AI要約は「決まっていないこと」を落とします
こちらのほうが、後々の費用に効きます。
AIの要約は、話の要点を残すように作られています。だから次のような発言は、要約の段階で消えるか、断定形に変わります。
| 実際の発言 | 要約されると |
|---|---|
| 「基本的には対応できると思いますが、詳細は持ち帰ります」 | 「対応可能」 |
| 「その範囲は……たぶん含まれています」 | 「範囲に含まれる」 |
| 「次回までに確認します」 | (消える) |
後から争点になるのは、まさにこの条件付きの部分です。
数か月後に「それは追加費用です」と言われたとき、根拠になるのは「基本的には対応できると思います」「詳細は持ち帰ります」という留保のほうです。要約された「対応可能」では、どちらの言い分も裏付けられません。
AIの出力は下書きです
これは医療の現場でも同じ構造です。
医師の診療記録をAIが下書きする仕組みについて、米国で行われた無作為化比較試験では、臨床的に意味のある不正確さが「ときどきある」に相当する水準で報告されています (NEJM AI 2025;2(12)・DOI 10.1056/aioa2501000)。
同じ研究の著者は、AIの下書きを人が修正する時間は計測していないとも述べています。
📄 この研究については別途くわしく扱っています。 【論文を読む】AI が診療記録を書くと、医師の負担は本当に減るのか
AIが作るのは下書きであり、人が確認して確定させる工程は省けません。 議事録も、診療記録も、この点では同じです。
だから、こうします
① 文字起こしの全文を残す
要約だけを保存しないでください。全文があれば、後から必要な発言を探せます。
保存の負担はほとんどありません。テキストなので容量も小さく、検索もできます。捨てるのは要約ではなく、全文のほうであってはいけません。
② AI要約に「4つの枠」を作らせる
多くのサービスは、要約の観点を指示できます。そのまま要約させず、枠を指定します。
以下の4つに分けて整理してください。
1. 決まったこと(誰が決めたかを含む)
2. 決まっていないこと(誰が、いつまでに決めるか)
3. 前提として説明されたこと(条件付きの発言はそのまま残す)
4. 費用に関わる発言(追加費用の対象かどうか)
⚠️ 断定されていない発言を、断定形に書き換えないでください。
「〜と思います」「持ち帰ります」等は、そのまま記載してください。
最後の一文が要点です。AIは自然に断定形へ整えてしまうので、明示的に止めます。
③ 人が確認する工程を残す
AIが作った要約を、打ち合わせに出た人が読み直します。
見るのは1点だけで構いません。「決まっていないことが、決まったことになっていないか」 です。
④ 相手に送って、一往復する
本議事録はAIによる要約に、当方で確認を加えたものです。
内容にご相違がある場合は、○月○日までにご連絡ください。
ご連絡がない場合、記載の内容で確定したものとして進めます。
AI要約であることを明記します。 相手も同じツールを使っている可能性があり、両者の要約が食い違うことがあるためです。
⚠️ 相手を疑うためではありません。人の記憶は薄れ、担当者は交代します。 ベンダー側にとっても「言っていないことを言ったことにされない」利点があります。
どこまでやるか
すべての打ち合わせでここまでやる必要はありません。費用と責任範囲に関わる場面に絞ります。
| 場面 | 対応 |
|---|---|
| 要件定義・仕様の確定 | 全文保存 + 4つの枠 + 一往復 |
| 見積もり・契約の協議 | 同上 |
| 障害対応 | 全文保存。ただし患者情報が出る場合は録音を止める |
| 進捗共有のみ | 通常のAI要約で足りる |
まとめ
| 論点① | 会話はどこへ送られるか。患者情報・構成情報が混ざりうる |
| 論点② | AI要約は 決まっていないことを落とす。後から争点になるのはそこ |
| 対処 | 全文を残す / 枠を指定して要約させる / 人が確認する / 一往復する |
AIを使わない理由はありません。 使い方を決めておくかどうかの差です。
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弊社について
MEDICT は、大学病院の医療情報部・県立病院の電子カルテ統括などに携わってきたメンバーで構成しています。打ち合わせへの同席や、仕様の妥当性確認のご依頼も承ります。
ℹ️ 特定のAI議事録サービスの適否について述べたものではありません。 利用にあたっては、各サービスの利用規約とデータの取扱いをご確認ください。